14 February 2012

温かい我が家。




それは今から九日前、日曜日の夕方のことでありました。

居間でインターネットサーフィンをしていたら、アパートの奥からシャワーの音が聞こえてくる。シャワー室のドアを開けたまま、豪快に浴びるシャワーの音。変だなあ、いくらドアが開いていてもこんなに響いてくるかなあ。大体あと15分で出かける時間なのに、うちの人ったらなんで今頃シャワー浴びてんの?


不思議に思った瞬間、隣の部屋からオットとムスコふたりの声が聞こえてくる。え?じゃあ、あのシャワーの音、誰?

…と眉間にしわ寄せたまま廊下を覗いたワタシが見たのは、天井の埋め込み型電球のソケットからどばどばと落ちてくる滝のような水であった。

一瞬目を疑ったが、廊下にいくつかあるソケットのうち、ふたつからすごい勢いで浸水している。あわてて浴室にバケツを取りに走り、大声でオットを呼ぶ。廊下にはすでにかなりの水がたまっていたのでクローゼットからタオルを抱えてきて床に広げる。その間に、クローゼット内にあるソケット三つのうちのひとつからも膜を破るように浸水。これもかなりの勢い。バケツはふたつしかないのでキッチンになべを取りに走る。その間に、主寝室にあるソケットのふたつからも浸水。廊下にあるソケットさらにもうひとつから、そして寝室のドアの上の部分からも、ぽたぽたと水が落ち始める。もうなべもボウルもないよぉ。オットが上の階の住人に知らせに走っている間にワタシは隣の家の呼び鈴を押し、助けを求める。配管工に電話して下さい!


最高気温が氷点下5度とかいう、ほとんど前代未聞の寒さが続いていたリヨン。上の階の水道管が凍結して破裂したのであった。

日曜日の夕方ということもあって、配管工とはどこもまったく電話が繋がらない。アメリカには週末だろうがお正月だろうが独立記念日だろうが、24時間緊急体制で対応してくれる会社がいくらでもあるんですが。日本にだってあるよねえ。お隣のご主人が消防署に電話をかけてくれて、消防士さんが四人来て水道を止めてくれるまで一時間ほどかかったか。うちのアパートの電気回路は当然ショートして、結果コンピューター制御の温水器がストップ、温水がないので暖房が切れる。外の気温が気温だけに、アパート全体がうっすら寒くなり始めるまでそれほど時間はかからなかった。水道も、上の階の水道管が修復されるまでストップ。


水道はほぼ24時間で回復したが、電気回路の安全確認にきてくれる人を確保できなくて(毎日あちこち電話しまくったにもかかわらず。このあたりやはりおフランスではないか)、ブレーカー落としたままなので温水器がダウンしたまま、要は暖房が切れたままの状態が続く。その間我々三人は友人宅とホテルを泊まり歩いた。電気を通す許可が出たのが浸水してから丸五日後の金曜日の夜。すぐに暖房を入れて、壁と床が熱で多少乾いてアパート中に充満していた強烈な湿った匂いが少し収まった日曜日の夜、うちに戻ることにした。

寝室ではまだ眠れない。まだ随分匂いが残っているし、寝ている間にカビを吸い込むのが心配だからである。クローゼットから運び出した衣類や荷物も、ダイニングルームの床に山積みになったまま。どこになにがあるかはっきりしない。ムスコの靴下、二足しか見当たらない。オットはムスコの部屋から移動させたマットレス、ムスコはキャンプ用のエアマットレス、ワタシはソファで、仲良く居間で寝ている親子三人。ああ、ホーム・スイート・ホーム、やっぱり我が家が一番である。



でもこの一週間、ワタシの頭に何度も浮かんだのは、いかに我々が幸運だったかということであった。

浸水が始まったのがあと15分遅かったら、我々は出かけた後だった。でも出かける前だったから、落ちてきた水はほとんどバケツやなべで受けることができた。留守だったらどうなっていたかと思うとぞっとする。さらに言うと、大きな家具の上から浸水しなかったのがありがたい。ベッドなんかだったらすぐに動かせないし、ピアノの上から浸水していたら…ああ、想像したくない。

我々は温かい支援の輪にも恵まれている。ホテルにいた時、友人の一人はうちの汚れ物を持って帰って洗濯してくれた。キッチンにアクセスがなかった二日間は、ムスコのクラスメートのお母さん二人が交代でムスコのお弁当を作ってくれた。浸水のあった日曜の晩、電話して一時間ほどで転がり込ませてくれた友人も、ホテルを出てから連泊させてくれた友人も、いやな顔ひとつせずに大きな腕を広げて迎え入れてくれた。

不便で大変でしょうと何人もの人に言われたが、不便だけですんだのである。寒い中凍えるような思いもしなかったし、食べ物に不自由したわけでもない。世の中には、もっともっと困っている人が沢山沢山沢山いるのである。


居間の床で寝るのは、キャンプみたいでわくわくするとムスコは言う。楽しそうにしているムスコと一緒にいると、こっちまで楽しくなる。奇しくも今日は、大雪でバスが運休、休校になった。普段は週末と半ドンの水曜日にしか許してもらえないビデオゲームにOKが出て大喜びのムスコ。彼にとってはなんだかさらに特別な日である。そう言うワタシはだらだらとブログめぐりをしたり(だって掃除さえできない状態だし~)、来週行くパリの予習でガイドブックに付箋をつけたり。


雪が降って篭るんなら、やっぱり自分の家がいい。屋根があって、食べ物があって、家族がいる。そんな自分のうちが、一番である。

8 comments:

nero said...

とにかくお疲れさんでした...。

ねむりぐま said...

コメントできるかな~

なんと、すごいことが起こっていたのですね!
でも、本当に、出かける前でよかったですねぇ。
出かけていたら...戻ったら海?

上のお宅の方は外出中だったのでしょうか。
しかし、やっぱり頼りになるのはポンピエさん達なのね。

Gabrielle said...

うわ。水漏れは確かに多い国だけど、これはすごい。
早く乾いて安心して寝られるようになることを祈ってます。
で、水漏れっていつも週末なんですよね、何故か。
いちおう、割高な24/24体制の業者も結構あるんですけどね。お隣さん、ご存じなかったのかも...。
何はともあれ、おうちに戻れてよかったですね。

vicolo said...

大変でしたね。
こういう話を聞くと、フランス住まいが羨ましいなんて言ってられないことを実感します。
起こったことはしょうがないが、やはり24時間応対処理してくれるシステムが控えているのと無いのとでは、暮らしに対する安心感が違いますね。

cocopuff1212 said...

■ねろさん、
とにかく疲れました…。

cocopuff1212 said...

■ねむりぐまさん、 
上の階の人、いたんですよ。実はこちらの方、前日「うちの水道から水が出ないんですけど、お宅は大丈夫?」って聞きにきていて、要は前日から水道管凍結してたってことですね。丸二日、水なしでどうやって生活していたんでしょうか。

cocopuff1212 said...

■がぶさん、 
緊急の配管工さんもみーんな出払っていたのかもしれないですね。とにかくあっちこっちで水道管が破裂していたらしいですから。

cocopuff1212 said...

■びころさん、 
フランスは、緊急事態や困ったことがあったときに大変苦労する国です。言葉ができても、いやフランス人であっても苦労するらしいから、できない私はそりゃもう苦労します。